ドイツ視察の報告


第8回国際心臓リハビリテーション学会(8th World Congress of Cardiac Rehabilitation and Secondary Prevention)参加およびドイツ心臓リハビリテーション視察旅行記
埼玉医科大学医学部リハビリテーション科助教授 牧田茂


日程
平成16年5月23日(日) 成田発ロンドン経由ダブリン着
24日(月) ダブリン
国際心臓リハビリテーション学会出席
25日(火) ダブリン
国際心臓リハビリテーション学会出席
26日(水) エジンバラ
27日(木) エジンバラ発ベルリン着
28日(金) *外来型心臓リハビリテーション施設見学
Kardiologische-Internistische Praxisgemeinschaft und Rehazentrum

*滞在型心臓リハビリテーション施設見学
Rehabilitationsklinik der BfA in Teltow Seeho
29日(土) ベルリン発フランクフルト経由成田へ
30日(日) 成田着

ドイツ視察報告

 見学施設
Kardiologische-internistische Praxisgemeinschaft
Zentrum fuer kardiologische und angiologische Rehabilitation

ベルリン市内中心部 Zoo駅(動物園駅)のすぐ近くに位置し、ウィルヘルム皇帝記念教会やクーダム通りが目の前という繁華街かつ交通至便のビルの一角を占めている。循環器と一般内科を専門とする4人の医師が共同経営しているクリニックである。循環器の外来リハビリテーションを行っているのが特徴である。

心臓病のリハビリテーションにおいてドイツでは滞在型のリハビリが主流である。その施設は都市郊外の風光明媚な場所に建てられたリハビリテーション病院またはクア病院のことを指している。ドイツではわが国と同様かつては結核が国民病として知られており、その治療として転地療養のために多くの療養所が建設されたのである。しかし抗生剤の普及により結核患者が激減したことにより、療養施設が生き残りをかけて新たな役割を模索した。結核に変わる疾患として増加していた動脈硬化性疾患とくに心臓病に対するリハビリテーション施設として生まれ変わった。現在は心筋梗塞や心臓術後の回復期リハを主体とした滞在型リハビリテーション施設が全国いたるところにあり、そこでの治療は保険ですべてまかなわれている。心臓病リハビリテーションは滞在型という概念がドイツ国民に浸透している。


ドイツ統一前の西ベルリンは陸の孤島といわれ、東ドイツに周囲を囲まれていたが、経済・文化は西側世界の中にあった。医療においても例外ではなく、西ベルリン内で心臓病にかっかった患者は、当然滞在型リハビリテーション施設に行っていた。しかし西ベルリン市内にはその施設がなく、患者は東ドイツ領内を列車で移動するかもしくは飛行機で西ドイツの滞在型施設に入院しなければならなかった。このような地理的不利な条件から、このクリニックは外来型の回復期リハビリテーションシステムを作ったのである。いわゆるベルリン方式のリハビリテーション(Berliner Modell)といわれている。それが1980年代のことですでに25年余りの歴史を誇っている。滞在型と比較した利点としては、患者が自宅から通院しながらリハビリテーションができるので、家事や仕事をしながら治療に専念できるという長所がある。それよりも医療費が安いということが挙げられる。しかしドイツ全体ではまだ滞在型リハビリテーションを選択する患者が95%余り(ベルリン市内でも80%)であり、圧倒的に滞在型リハビリテーションが支持されている。治療は時間をかけてゆっくり行うべきであるというのが、ドイツ人の考えであろうか。病気による休暇が完全に保障されており、職場に気兼ねなくゆっくり治療に専念できるという医療システム、労働・給与の保障やドイツ人気質が反映されていると思われる。
 
このクリニックは開設当初は年間40−50名余りの心臓病患者のリハビリを行っていたが、除々に増加し年間500−600人の患者を受け入れるまでになっているという。ベルリン市内ではリハビリ病院は1箇所のみで、外来リハビリはここを含めて2箇所であるという。ベルリン市内ではリハビリを行っている心臓病患者は年間約1200人とのことである。ドイツ国内全体では外来リハビリを行っている施設は45−50ぐらいしかないという。
この施設の回復期外来リハは3週間コースで、患者は毎日クリニックに通い一日5−6時間(月から金まで)のプログラムに参加している。運動療法以外に心臓病に関する講義を受けたり、栄養指導を受講している。また実際に昼食を食べたり調理するプログラムも用意されている。これらの費用はすべて保険から支払われている。このクリニックの面積は1250平方メートル(378.8坪)と大変広い。したがって、ビルの1フロアだけでは無理で、いくつかのフロアに心リハに関するスペース(運動療法:自転車エルゴ室、リラクセーション室、トレーニング室、患者教育室、待合室等)が幾部屋もある。このクリニックに勤務するスタッフはSportlehrer(体育大学出身で心臓リハビリテーションに関する専門資格を有するもの)と称する運動指導員が4名、PT7名、看護師1名、Arzthilferin(ドイツにおけるクリニックのみに勤務することが許されている医療職で、医療事務・検査技師・看護師等の役割を兼任する職種)4名、栄養士、心理士となっている。多くが心リハに関わっており包括的心リハを実践しているという。ここに通院している心リハ患者のコンプライアンスは95%という驚異的数字を維持しているという。
 
先ほど述べた費用の件であるが、滞在型では一日100ユーロ使われ、21日間入院すると2100ユーロとなる。一方外来型では一日85ユーロで3週間コースであるが、週末は自宅で過ごすため15日通院ということになり、結局1275ユーロの保険負担となる。両者の心リハの効果比較は、運動耐容能改善に注目するとほとんど変わりないという。したがって外来型の方が825ユーロ安くなるのでコストベネフィットは良い。とはいってもドイツ人にとって滞在型を好む傾向は変わらない。すべてに合理性を考え、データ好きの国民性にしては矛盾した傾向であるが、アメリカ社会と違って伝統・習慣や人間的生活を重要視する国民性がヨーロッパらしい。
 
回復期リハ後の維持期になるとambulante Herzgruppe(AHG)とよばれる地域に根ざした運動療法グループに所属し、生涯にわたって心リハを継続することになる。このクリニックにもAHGはあり、15グループ計150人の患者を長期にわたってフォローしているという。週1回の運動療法であるが、これは経営母体をかえてスポーツクラブ(Sportverein)として登録しているという。経営上その方が好都合という。ベルリンの場合、ここでの維持期運動療法は2年間保険からいくらかの支払いがあるというが、それ以降は全額患者の自己負担となるという。

滞在型リハビリテーション施設
Rehabilitationsklinik Seehof    Teltow bei Berlin
ベルリン郊外(中心部から30分ぐらい)のTeltowという地区ある心臓リハ専門の病院である。BfA(Bundesversicherungsanstallt fuer Angestelite)という保険組合立の病院である。日本で言うと社会保険病院や国保病院に相当するか。全国にBfA立の病院がある。この施設では心筋梗塞、心臓術後のほかに心肺移植後のリハも引き受けており、15年間に2000例余り移植患者のリハを行ったという。移植後10日から12日後にこちらに移り3−5週間の滞在型リハを実施する。心不全患者も受け入れているのが特徴である。立派な施設を持っているのが特徴である。