第1回ホノルル・心臓リハビリテーション・ワークショップ報告


ジャパンハートクラブ 運動療法・心臓リハビリテーション指導士向け教育事業
第1回ホノルル・心臓リハビリテーション・ワークショップを終えて

埼玉医科大学 リハビリテーション科
佐藤真治




2006年2月19から25日にかけて、米国・ハワイのホノルルに於いて、ジャパンハートクラブ(JHC)主催による運動療法・心臓リハビリテーション指導士向け教育事業の一環として「ホノルル心臓リハビリテーションワークショップ」がおこなわれました。ここでは、その概略をご報告します。



ワークショップの概要

ハワイは医療先進国のアメリカの1州ということもあり、非常に高い医療レベルを誇っています。心臓リハビリテーションも理学療法士、看護師を中心としたCardiac rehabilitation coordinatorが病棟で患者さんに個別に対応しており、低コストで効率的な医療を実現しています。また、現在ハワイが直面している肥満と糖尿病、それに合併する心疾患の問題は、今後の日本の大きな課題です。
今ワークショップでは、このようなハワイの特徴を考慮して、(1)糖尿病・生活習慣病の患者教育の最先端を学ぶ、(2)米国の地域医療の現実を見学する、(3)ハワイ日系男性の疫学調査の報告から、肥満・糖尿病と認知機能の関連性ついて考える・・・ことを主なテーマとしました。また、若い医療スタッフが将来海外で活躍するためのきっかけづくりを目的として、ハワイ大学の齊藤中哉先生を講師に向かえ、ハワイで活躍中の看護師の方を囲んで「英語でディスカッションを始めよう!」というユニークなプログラムも試みました。
参加者は、循環器もしくは糖尿病を専門とするコメディカルを中心とした20名(医師1名、看護師11名、理学療法士4名、その他4名)にコーディネーターの今村貴幸先生(東海大学)、私の2人を加えた計22名でした。
一行がホノルル到着した日の天候はあいにくの曇りで、ハワイの輝く太陽と青い空を期待していた参加者には少し気の毒でしたが、気温25度と過ごしやすい(勉強に集中しやすい!?) 中でワークショップがスタートしました。

糖尿病・生活習慣病の患者教育の最先端を学ぶ

研修1日目(2月20日)午前、講師のJane Kadohiro先生(看護師、ハワイ大学講師、米国糖尿病教育協会・元会長:写真1)に、糖尿病患者教育で現在トレンドとなっているセルフマネジメント・トレーニングについてご講義いただきました。セルフマネジメント・トレーニングは、個人に対しチーム(看護師、栄養士、運動療法士などで構成)でアプローチすることを基本とし、“答えを教えるのではなく、自分で見つけさせる”ことを重視します。具体的なテクニックについて説明が少なかったのは残念でしたが、心臓リハビリテーションで主流となっている包括的リハビリテーションと共通する部分も多く、参加者全員が興味深く聞き入っていました。
Jane先生のレクチャーの後は、小グループに分かれて“セルフマネジメント教育を自分の病院に活用できるか?”をテーマにディスカッションしました。ディスカッションによって得られた結論は、グループ毎に個別にJane先生に報告し、アドバイスいただきました(写真2)。参加者は限られた英語力で懸命に説明し、それに対してJane先生が誠実に丁寧にお答えになる・・・そんなやり取りが繰り返されるうちに、いつしか時間が過ぎ、結局予定の時間を1時間以上オーバーして午前のプログラムが終了しました。

写真1 Jane Kadohiro先生(左)と
通訳の木全智恵子さん
写真2 Jane Kadohiro先生を囲んで
小グループディスカッション


米国の地域医療の現実を見学する

米国の医学がトップレベルにあることは周知の事実です。しかし、現場でおこなわれている医療は必ずしも理想通りではありません。ハワイの病院の中では、ホノルル中心部にあり先進医療を提供しているクイーンズ病院が有名ですが、今ワークショップではあえて郊外にある中規模のクアキニ病院を見学先に選びました。
研修2日目(2月21日)、朝早く市内バスを使って、参加者は各自クアキニ病院に向かいました。クアキニ病院到着後、レクチャー(写真3)を経て病院見学で参加者が目にしたのは、システム化された心臓リハビリテーションプログラムではなく、冠動脈インターベンション後は次の日に、心臓外科手術後でも3〜5日で退院させてしまう効率重視、経済重視の医療の姿でした。米国ではどの病院も積極的に心臓リハビリを行なっていると考えていた参加者も多く、米国の地域医療の現実に戸惑っている様子でした。とはいえ、病院の中が殺伐としているわけではありません。ピンクで統一された院内は明るく、医療スタッフは皆親切。ボランティアが多いのもこの病院の特徴で、あちこちから「何かお手伝いしましょうか?」の声が聞こえてきます。現代医療の抱える問題点をホスピタリティーあふれるアロハ・スプリットがフォローしているという印象を持ちました(写真4)。

写真3 クアキニ病院でのレクチャー 写真4 クアキニ病院前景


肥満・糖尿病と認知機能の関連性ついて考える

自由研修日を1日はさんで研修最終日(2月23日)午前は、Pacific Health Research Instituteの矢野勝彦先生を囲んでディスカッションをおこないました。矢野先生は、日系ハワイ在住米国男性を対象にした疫学研究(ホノルル・ハート・プログラム)に40年以上携わっており、その成果は世界中から注目されています。今ワークショップでは、まず矢野先生に日系ハワイ男性(平均年齢93歳)の“脳の老化現象”を調査したホノルルーアジア・エイジング・スタディの成果をご報告いただき、その後、参加者を交えて意見交換をしました。
矢野先生からは、(1)ハワイ日系人における認知機能障害にアルツハイマー型(AD)が増えており、最近は日本人にも同様の傾向が認められる、(2)ADは、APOE遺伝子多系に加え肥満・糖尿病をきっかけとする動脈硬化によって発症リスクが高まる、(3)AD発症10〜30年前より認知機能の低下は始まっており、その段階をMild Cognitive Impairment(MCI)と呼ぶ・・・ことなどをご報告いただきました。また、参加者による意見交換の後には、潜在的にADのリスクが高い心臓リハビリテーション患者に対して、MCIの段階から運動療法や心理刺激による介入をおこなう、“脳老化抑制を目的とした予防的リハビリテーション”という新しい概念を示していただきました。
内容が専門的であることもあってこのプログラムの参加者は9人でしたが、参加した方の満足度は非常に高く、特にMCIの予防的リハビリテーションという発想には大いに刺激を受けたようでした。
ディスカッションを終えた後、矢野先生を含めて参加者全員でホノルル美術館内にあるカフェで軽食を取りました(写真5)。美術コレクションを間近に、美味しい食事を取る・・・、ディスカッションを終えた充実感とあいまって、とても上質な時間を過ごしました。

写真5 ホノルル美術館で矢野先生
を囲んでランチ


英語でディスカッションを始めよう!

「将来、海外で仕事がしたい。」「国際学会で発表してみたい。」と、考えているコメディカルの方は少なくないと思います。その時のバリアとなるのが英語力です。今ワークショップでは、英語に対する心理的なバリアを小さくすることを意図したプログラムを組み入れました。
研修1日目の午前は、Jane先生に対しすべての参加者が英語で自己紹介しました。研修2日目の午後の齋藤先生は、理路整然とした英会話のレクチャーと系統立ったスピーチ・トレーニングの後に、「日本人なのだから、うまくしゃべれなくて当たり前。格好良く話そうとせずに、クリアにシンプルに語りかけようよ!」と我々にエールを送っていただきました(写真6)。
ワークショップ終了後、参加者に「より英語を積極的に活用しようと考えていますか?」とアンケートいたしました(図1)。その結果、50%の方が「非常に考えている」、44%の方が「かなり考えている」と答えており、このプログラムにある程度期待した効果があったことが示されました。

写真6 斉藤先生を囲んで 図1 アンケート結果


ワークショップを終えて

大きな事故もなく無事終えることのできた第1回ホノルル・心臓リハビリテーション・ワークショップでしたが、反省点も多くありました。一つは、多彩なバックグラウンドを持つ参加者に十分対応したプログラム構成でなかったこと。二つ目は、臨床の現場で直接役立つ技能を習得できる機会が少なかったことなどです。これらをふまえ次回は、(1)参加者の臨床経験年数や英語力に応じて別コースを設定する、(2)臨床の現場で働くコメディカルと直接コンタクトできる機会を設定することなどを考えています。
唯一の自由研修日(?)となった2月22日は、一部の参加者を連れ立って、郊外のカイルアビーチ(オアフ島で最も値打ちがあるビーチ)に行きました。その日に限ってそれまでの曇天が嘘のように快晴となり、参加者の方々も私もハワイの海・空・風・太陽を大いに満喫しました(写真7)。海外でのワークショップ主催には大変な責任と苦労を伴います。しかし、このような試みも長く継続することで、大きな実を結ぶときが訪れる予感もしています。カイルアビーチから望む青い水平線を眺めながら、志を新たにいたしました。